介護老人保健施設に「介助義務違反」で損害賠償2800万円。

裁判イメージ:転倒事故の介護老人保健施設に損害賠償2800万円

「介助義務違反」とは

 京都市山科区の介護老人保健施設「アビイロードやましな」の入居者男性=当時(82)=が、職員の介助不足により複数回転倒して死亡したとして、遺族が施設を運営する医療法人「稲門会」(左京区)に約4800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が31日、京都地裁であった。島崎邦彦裁判長は、職員の介助義務違反があったとして同法人に約2800万円の支払いを命じた
 島崎裁判長は、男性が重度の認知症を患っており、転倒のリスクが高いと指摘。施設に入所後、約20日間で3回転倒していたとして、2回目以降の転倒は「頭部を直接床に打ち付け、重大な結果を生じさせる危険が極めて高い状態にあった」と認定した。その上で、男性が歩行する際に職員が付き添い、介助していれば死亡に至る転倒を防げたとした。
 判決によると、男性は2015年8月に施設に入所し、同年11月13日、施設内で転倒。翌日に搬送先の病院で両側前頭葉脳挫傷で死亡した

介助不足で複数回転倒し死亡 施設に2800万円賠償命令 :京都新聞

こういった事件で問われるのは事故を予見できたかということですが、入所後20日間で3回転倒していたということで、転倒リスクが高いことが認知されていたのではないかと思われます。

介護保険施設には契約上、安全配慮義務があり、それを怠ると安全配慮義務違反となります。

転倒が予見されているのであれば、安全配慮義務として歩行介助するという義務が発生します。この介助を怠ったとして、介助義務違反としています。

対象となる利用者に認知症があって介助を拒否したとしても、介助に抵抗したとしても、それは義務として発生することが、介護という仕事の難しさでもあります。

2800万円という金額。損害賠償というリスクを抱える介護施設。

2800万円という損害賠償金額は介護老人保健施設にとっては非常に重い金額だといえます。

損害賠償請求は4800万円だったことを考えれば事情をくんでいただいているのかもしれませんが、介護事故をめぐる裁判は介護事業所にとって厳しい判決が出ることが増えています

介護保険施設だけでなく、介護保険事業者は事故や損害賠償という非常に大きなリスクを抱えています

でも、介護老人保健施設は在宅復帰を目指してリハビリを行うための場所であって、自宅に戻るのであればやはり一人で歩くという場面だって想定しなければいけないはずです。自宅ではどんなに手厚く介護をしようとしても24時間365日誰かが必ず一緒にいることはほぼないわけですが、あくまでゴール設定は在宅復帰。 通常三か月で介護老人保健施設でのリハビリを評価し、在宅に復帰するというのが基本なので、8月入所で11月ということであれば、本来であれば評価をして退所となる時期です。 事故が起こるリスク承知で在宅復帰を目指していたのであれば、この損害賠償額はいささか大きすぎるように感じます。

リハビリでリスクを減らすことはできてもゼロにはできません。背負うリスクが大きすぎると、業界が委縮し、介護職員には過剰な介助が要求されます

その結果、介護職員は過剰な負担で疲弊し、さらに利用者は依存心を高め、自立への意欲を低下させます。リハビリの効果も薄くなり、在宅復帰も遠ざかっていくのではないでしょうか。

それだけではありません。転倒のリスクがあるとして認知症の利用者の受け入れを拒否する施設が増えていく可能性もあります

転倒予防など安全配慮の責任があることはもちろん理解できますが、責任が重くなりすぎることには疑問を感じます

介護する側の責任を厳しく求める風潮に対して、判決による社会的な影響力をもう少し考慮しなければいけないのではないでしょうか

介護老人保健施設「アビイロードやましな」とは

事故の起きた介護老人保健施設「アビイロードやましな」は医療法人稲門会が運営する施設です。いわくら病院を中心に三か所の介護老人保健施設と特別養護老人ホームなどを運営しています。

そのなかで、「アビイロードやましな」は認知症棟のある介護老人保健施設ですので、認知症の利用者の受け入れも多かったと思われます。

今回の事故が起きた利用者も認知症ということですから、行動には注意を要したと思われます。

この法人が運営している3か所の介護老人保健施設のうち、ひとつは在宅復帰超強化型、ひとつは在宅復帰強化型。そのどちらも在宅復帰のために集中的にリハビリを行うための施設で、算定できる介護報酬の単価・加算も高い施設です。そしてこの在宅復帰型「アビイロードやましな」ほかの2施設と比べて認知症等で在宅復帰が難しい利用者も多かったのかもしれません。介護老人保健施設では在宅での介護が困難で受け入れ先のない利用者を受け入れる場合もあるので、そういった利用者も少なくなかった可能性もあります。リハビリ施設で本来受け入れるべき利用者だったのか、ひょっとしたらその点も考えなければいけない事例かもしれません。

アビーロードって言ったら、やっぱりこれでしょうけれど。

ABBEY ROAD