ショートステイの予約が消えた。
ショートステイ利用予定だった予定がシステム上から消えてしまっていたため、ショートステイ職員が送迎に行かず、利用予定だった利用者は熱中症のために亡くなってしまうという残念なニュースがありました。
今回はこのニュースについて紹介したいと思います。
この記事の目次
システムトラブル?ショート利用予定男性、熱中症のために自宅で逝去
【速報】特養で「短期宿泊」予定していた80代男性 施設が迎えに行かず自宅で”熱中症”で死亡 男性は『要介護5』認定 大阪市
大阪市生野区の特別養護老人ホームで、施設での短期宿泊を予定していた80代の男性を施設が迎えに行かず、6日後に男性が自宅で死亡していたことがわかりました。
問題が起きたのは、大阪市生野区の社会福祉法人「慶生会」が運営する特別養護老人ホーム「瑞光苑」です。施設によると、15日から短期宿泊での介護を予定していた85歳の男性を施設が自宅に迎えに行かず、6日後に別の介護事業者が自宅に訪れたところ、男性が死亡した状態で見つかりました。 捜査関係者によると、死因は熱中症だということです。
男性は介護が最も必要な「要介護5」の認定を受けていて、12日に介護の予約が入ったということですが、入力した予約のデータが消えてしまったため、予約に気づけず、男性を迎えに行けなかったということです。
ほかの利用者に影響は出ていないということです。また男性は複数回、施設での介護サービスを利用したことがあったということで、警察が施設から事情を聴いています。
yahoo!ニュースより
施設は「重大な事故として非常に責任を感じている。二度とこのようなことが起きないよう再発防止に努めたい」と話しています。
非常に残念なニュースなのですが、ご自宅で亡くなった男性もつらかっただろうと、本当にお悔やみ申し上げます。
なぜこのようなことが起きてしまったのか。
そして、防ぐことはできなかったのか。
利用者の状況・施設の概要
簡単に利用者の状況と施設の概要をまとめてみます。
【利用者】
- 要介護5 男性 85歳
- 独居
【施設】
- 特別養護老人ホーム併設のショートステイ
- ベッド数は16床
- 長期入所が124名
- 鉄骨鉄筋コンクリート造 地上5階
独居の男性でショートステイに行く予定だった。6日後に別の介護事業者が訪問した際に男性を発見したということであれば、おそらく5泊6日程度の利用予定だったのではないかと推測されます。
その間、誰も男性に気が付くことができなかったのでしょうか。
発見することができた可能性は?
まず、簡単に時系列で確認します。
12日 | 不明 | 15日 | 不明 | 21日 |
ショート予約を 受ける | システム障害 データ削除? | ショート 利用予定日 | ショート 退所日 | 熱中症での 死亡発見 |
ショートステイ側
まず、施設側で気が付くことができなかったのか。
おそらく、いくつもポイントはあると思うのですが、一番のポイントはシステム障害が発生した後のデータ復旧です。
データ復旧の際に誤って予約情報を削除してしまったのではないかとみられています。
ただ、復旧時にデータのバックアップはなかったのか、
復旧後のデータについてどのように確認をしていたのか、
ダブルチェックはできていたのかなど、疑問は残ります。
予定を削除してしまった時点で、男性が利用する期間のショートステイ予約はぽっかり空いてしまっていたわけで、その空白を見て気が付くことができなかったのでしょうか。
おそらく、他のショートステイの予約が入り、その期間の予定を埋めてしまったので、もともと予約していた男性のことを気に留めることはなかったのかもしれません。日々の業務をこなしているうちに、男性の予約について気が付くことができなかったと思われます。
サービス提供表やショートステイの予約票など、書類に気が付く可能性もあったかもしれませんが、大量に流れてくる書類に埋もれ、そこに目を留めることは至難の業なのかもしれません。
ただ、利用3日前に入った予約ですので、周囲との申し送りなどは早急に行わなければいけない状況だと思います。申し送り等を行っていたとしたら、誰か気が付くことができなかったのかと疑問に感じます。
少し気になったのは、ニュースによるとショートの予約が入ったのは12日。15日からショート利用予定で6日間。3日前に6日間も予定が空いているということはなかなか考えにくいのですが、大阪はどうなんでしょうか。
施設の重大な責任ということは否定できないかもしれませんが、現場の職員だけにその責任を負わせるには酷な気がします。
在宅サービス事業者
独居で生活している男性を支援している在宅サービス事業者はこの異変に気が付くことはできたのでしょうか。
亡くなっている男性を発見したのは別のサービス事業者でしたので、平時に利用している訪問介護や通所介護などのサービスはあると思われます。ショートステイの予約が入っていたので、その期間の訪問をすべてキャンセルしていたため、気が付くことは難しかったでしょう。
ただ、要介護5の独居男性であれば、ショートステイの利用日前後に送り出しや受け入れでヘルパーを訪問させるというパターンが比較的多いです。出発時の荷物の確認や、事前に排泄や更衣などのモーニングケアを済ませたりしたあとでショートの送迎を待ちます。もし、ショートステイの送迎が来ない!となったらヘルパーが異変に気付くことができたのかもしれません。
ケアマネジャー
ケアマネは気が付くことはできなかったのか。
普段から40名近い利用者を担当しているケアマネ、常に全員の利用者の状態に気を配ることは不可能です。
もし、初めて利用するショートステイ施設だったら、「施設での様子はどうですか?」と電話するなど状況確認をしていたかもしれません。自分もそういった状況では基本施設に訪問させていただいて様子を見ていました。
しかし、普段から日常的に利用しているようなので、そこは安心してしまっていた部分もあるのではないでしょうか。
夏場は施設で体調管理していた方がいいと長めの利用申し込みをする場合などもあるので、申し込みができた時点で安心してしまっていた部分もあるかもしれません。
家族等
家族等についての情報がないのでわかりませんが、独居での生活で異変に気が付くことは難しいかもしれません。
地域とのつながりもわかりませんが、6日間の間に発見するというのは難しいのではないでしょうか。
施設や事業所、関係者。気が付くことが難しい状況が重なって起きたのかもしれません。
地域包括ケアシステムとは何か
厚生労働省が旗印として掲げている地域包括ケアシステム。
それは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制 を意味します。
でも、現状の地域包括システムは責任の所在もあいまいな縦割りになりやすく、そのはざまに取り残される方がたくさん生まれているのも現状です。今回の事件もその一端と言えます。
地域包括ケアシステムは、きれいなうたい文句かもしれませんが、結局のところ本人や家族が最終的な責任を負わなければ成り立たないシステムなのです。
システム依存は悪なのか
システム運用を支える人への支援を
今回のショートステイ予約のミスに関しては、システムトラブルが発端にあったとされています。
しかし、本当にシステムトラブルが直接の原因だったのか、疑問は残ります。予約システムを使っているとしても、予定が削除されたのはシステムの原因だったのか、トラブルの発端にヒューマンエラーは存在しなかったのか。
いずれにしてもシステムを悪者にして改善できる問題ではありません。システム障害が発生したためにバックアップデータを復元したとしても、バックアップデータはいつ時点のデータなのか、抜け落ちているデータはないか。情報をチェックするのは人の目を解する必要があります。
システムは利用するものであって依存するものではありません。大事な利用者の命を預かっていることを忘れてはならないのです。
そしてシステムを担当する職員に過剰な業務負荷を追わせるのではなく、分担しながら共同でチェックしていく体制を作ることも重要です。トラブル時の対応を複数の職員で行えば、ダブルチェックが機能し、エラーにも気が付きやすくなります。
データ連携で見える化を
最後にお伝えしたいのはデータ連携の意義です。
厚生労働省がスタートしたケアプランデータ連携システム。
まだ非常に実施率も低い状況で、そもそもシステムを有料にした厚生労働省の先読みの甘さと、周知の弱さにより、まったく定着しません。
もし、データ連携ができていたら、施設のショート利用予定のデータとケアマネから届く提供表の予定を重ね合わせることで、予定のエラーに気が付くことができたのではないでしょうか。
「システムは怖い」という印象を与えかねない記事ですが、エラーを防ぐことはできたはず。
このような悲劇を繰り返さないように、横断的な情報連携が進んでいくことを期待します。
最近のコメント