介護殺人。認知症高齢者の承諾殺人は成立するのか?

介護殺人。認知症高齢者の承諾殺人について

介護しなければいけない家族を抱えて、苦悩の末に殺害してしまうという介護殺人。介護殺人のニュースは今も後を絶ちません。

いずれも殺害に至る経緯を見ていると、自分も胸が苦しくなります。

認知症の母親と知的障害の姉を殺害

この事件では二人が亡くなっています。


昨年9月、栃木県日光市のパーキングエリア(PA)に止めた乗用車の中で母親と姉を殺害したとして、無職の男が逮捕された事件は、障害がある姉を介護していた母親が認知症となったことを背景として起きた心中事件だったことがわかってきた。

この事件で殺人と承諾殺人の罪に問われた埼玉県春日部市大沼4丁目、無職宇田川稔被告(61)の裁判員裁判の初公判が4日、宇都宮地裁であり、検察側、弁護側双方の冒頭陳述で明らかになった。

宇田川被告は罪状認否で、二宮信吾裁判長から起訴内容に間違いはないかと問われると、「ありません」と短く答えた。

冒頭陳述などによると、宇田川被告は昨年9月10日午後5時ごろ、日光市野口の日光宇都宮道路下り線の日光口PAに止めた車内で、同居する母親(当時90)の承諾を得て、顔にラップを巻き付けて窒息死させた。その後、睡眠薬を飲ませて寝ている姉(当時66)を同様に殺害したとされる。

姉には先天性の知的障害があり、母親が一人で介護してきたという。しかし、2012年ごろから母親に認知症の症状が現れ、要介護の状態に。2人の介護を担った父親も17年末に亡くなり、宇田川被告と妻が仕事を辞めて2人の介護にあたったという。


「障害ある姉を介護する90歳母も認知症に 2人殺害事件 」朝日新聞より

介護殺人。事件の概要。

簡単に事件のストーリーを整理します。

被告(61歳)は認知症の母(90歳)と知的障害を持った姉(66歳)を家族に持っていました。

それまで介護を担っていた被告の父親が亡くなり、被告とその妻が仕事を辞め、介護にあたることになります。

被告は投資に失敗し、2000万円の資産を失い、逆に200万円の借金を抱えます。

被告は母親と姉の二人を睡眠薬で眠らせ、二人を窒息死させて殺害(母親には心中を打ち明け、承諾を得て殺害しているという主張)。

被告も包丁で自殺を図ったが、失敗。不審な車があると発見され、逮捕。

というのが顛末になります。

裁判の結果は?情状酌量と執行猶予は?

介護殺人での裁判の結審がでましたので、それも紹介します。

こういった介護殺人の事件での裁判のポイントは、情状酌量の余地があるか、そしてそれを考慮し、執行猶予が付くかという部分です。


昨年9月、栃木県日光市の自動車専用道路パーキングエリア(PA)で母親と姉を殺害したとして、殺人と承諾殺人の罪に問われた埼玉県春日部市、無職、宇田川稔被告(61)の裁判員裁判の判決公判が7日、宇都宮地裁で開かれた。二宮信吾裁判長は「殺害動機は被害者への思いやりからではない」として、懲役6年(求刑懲役7年)の実刑を言い渡した。
 公判では量刑が争点となった。二宮裁判長は「2人を同時に介護するなど精神的に追い込まれていたことは認められる」としたが、「身近な人に相談するなどほかに選択肢はあった」と指摘した。弁護側は「認知症の母と障害のあった姉の2人を介護し、負担が大きかった」として、情状酌量による減刑を訴えていた。


「介護疲れ…母と姉殺害 61歳被告に懲役6年の判決 」産経新聞ニュースより

執行猶予はつきませんでした。

二人を殺害しているということもポイントになると思います。

介護に困ってというだけではなく、経済的な困窮という要因も強かった印象も記事からは受け取れますが、その原因を作ったのは投資で2000万円の資産を失った被告ということで、身勝手な犯行という印象も受けます。

精神的に追い詰められていたことは認めるとしながらも、他に選択肢はあったとしています。

いま介護をしている家族に伝えたいこと

こういった事件を見ると、介護の負担だけでなく、経済的な負担が非常に重くのしかかっていることが多くあります。

介護のために仕事を辞める」ことにより、収入が途絶え、経済的に困窮しているケースが多いのです。

今回の事件でも、被告とその妻が仕事を辞めています。

せめてどちらかは仕事を続けるべきだったのではないかと考えます。

もちろん、それぞれの家庭に事情はあると思いますし、冷静な判断ができない状況にあると思います。

ただ、介護のために仕事を辞めるという選択は最後にするべきだと思います。

そのために、必要な介護サービスを利用することをまず考えるべきです。

どちらかを施設にという選択肢もないわけではなかったと思います。家庭の状況などを考えると、61歳姉の介護負担が大きいのであれば、施設やグループホームなどを考えるという方法をとることを考えることはできたのではないでしょうか。

認知症高齢者、承諾殺人・同意殺人は成り立つのか?

もうひとつ、考えなくてはいけないことは、90歳の母親を殺害する場面です。

被告は目を覚ました母親に心中を打ち明け、それを母親も受け入れたということです。

 10日に自宅で2人に睡眠薬を飲ませてから後部座席に乗せて出発。現場に着いて殺害しようとしたときに母親が目を覚まし、心中の意思を伝えると受け入れたという。宇田川被告は殺害後、持ってきた包丁で自殺を図ったが失敗。近くを車でさまよった後、PAに戻ったところを、不審車両があるとの通報を受けて捜索していた日光署員に発見された。


障害ある姉を介護する90歳母も認知症に 2人殺害事件
」朝日新聞より

睡眠薬が聞いていたのであれば冷静な判断ができる状況ではないとも思いますし、認知症がどのような疾患によるものかもわからないので何とも言えませんが、それを聞いて母親が理解ができたとして、どう思ったかと考えると非常に切なくなります。

自分のために介護を担ってきた実の息子が、娘と自分を殺害しようとしているという状況を想像してみてください。

お母様の胸の苦しみは非常に大きかったことでしょう。

同意殺人・承諾殺人とは

被告の主張では、母親はそれを受け入れたということで、いわゆる承諾殺人が成り立つかという議論になります。


承諾殺人罪(同意殺人罪):行為者が被害者に対し殺害の申し込みをしたところ、被害者がこれに同意・承諾した事を受けて殺害した場合に承諾殺人罪(同意殺人罪)となる。

wikipediaより

「温情判決」京都での母親殺害事件は同意殺人

「温情判決」として有名な京都の介護殺人の事件も認知症の母親を介護する長男が犯した殺人事件でした。

この事件は具体的な会話の内容も含め、追い詰められていた様子が非常に伝わる事件でした。

残念ながらこの事件の被告、執行猶予がつき、裁判官から 「自分で自分をあやめることのないように、お母さんのためにも幸せに生きてほしい」 という言葉で送り出されたものの、事件から10年後に自殺をしています。

いずれにしても、事件が深い影を落としていたのだと思います。

裁判所は、認知症でも判断能力はあると考えるのか

京都の事件では、裁判官も同意殺人として認知症であった母親が被告の意思を理解をできたと判断しています。

今回紹介したケースでは、殺害することについて同意していたかどうかは伝わりにくく、また殺害する意思をもってすでに車で出発をしています。姉に関してはもちろん同意も得ていないということもあり、同意殺人とするには無理があるケースなのかもしれません。

認知症であっても裁判でその判断能力を認めるという場面もないわけではないという考え方になるのでしょう。

ただ、大事なのはそれまでの経緯なども含め、情状酌量の余地、つまり同情すべき余地があるかどうかというところですね。

介護保険サービスなどのセーフティーネットを利用したか、相談をしたか、あらゆる手を尽くしたかどうかも一つの判断になってきますね。

映画「半落ち」での有名な裁判シーン。

「あなたは介護保険制度を知っていますか?」「なぜ奥さんを生かすことを考えなかったのですか?」と裁判官が問いかけるシーンもあります。

この映画では「殺して」と懇願していることから、同意殺人よりも明確に殺害を依頼されている嘱託殺人に該当します。

介護殺人という悲劇を繰り返さないように、介護というセーフティーネットが十分機能する社会であってほしいと願うばかりです。