コロナ訴訟。広島県三次市の介護事業者が4400万円の損害賠償を提訴される。

日本中がコロナ訴訟だらけに?

ホームヘルパーからコロナ感染!?遺族が訪問介護事業所運営会社を提訴。

いまだ新型コロナウイルス感染症による影響は大きく、感染者数増加の勢いはピーク時ほどではないとしても、感染収束にはまだまだ道のりは遠いように思います。

著名人の感染も多く、今日は米国トランプ大統領夫妻も陽性反応と、いつ、どこで、だれが感染するかわからない感染症です。

介護保険事業所も感染対策を行いながら懸命にサービス提供を継続しています。

そんな中、このようなニュースが。

広島県三次市の介護業者を提訴 「ヘルパーから感染」、82歳死亡

 新型コロナウイルス感染症のため82歳で亡くなった三次市の女性の遺族の男性=広島市=が、広島県三次市の訪問介護事業所の運営会社に計4400万円の損害賠償を求めて広島地裁に提訴したことが1日、分かった。担当ヘルパーが訪問を控えていれば母親の感染は防げたとし、運営会社の安全配慮義務違反や使用者責任を問うている。

訴状などによると、三次市で1人暮らしをしていた女性は4月3日に発症し、PCR検査で9日に陽性と分かった。広島市内の病院に入院し、19日に新型コロナによる肺炎のため死亡した。10日に陽性が判明した50代のヘルパーの訪問サービスを3月23、27、30日と4月2、6日に受けていた

このヘルパーは3月31日に発熱と味覚・嗅覚異常があったが、翌日にいったん症状が改善した。原告側は、ほかに母親を感染させたと考えられる人がおらず、ヘルパーの親族にも新型コロナが疑われる症状が出た4月1日までには、自身の感染可能性を十分に認識できたとする。ヘルパーが訪問サービスを回避すべき注意義務を怠り、運営会社に損害を賠償する責任があると主張。運営会社は安全配慮義務を怠ったとも指摘する。

新型コロナ関連を担当する広島弁護士会災害対策委員会の砂本啓介委員長は「現時点では、全国でも新型コロナに関連して病院や介護施設などの責任を問う訴訟はあまりないのではないか」とみる。

遺族の男性は中国新聞の取材に対し「ヘルパーを交代させていれば母の命は奪われなかった。運営会社は責任を認めて謝罪してほしい」と話している。中国新聞の1日の取材依頼に対し、午後9時時点で運営会社からの返答は得られていない。

yahoo!ニュースより

50代のホームヘルパーが訪問することで、サービスを利用していた一人暮らしの女性が感染したとみられ、肺炎のために死亡したというのが経緯です。

こちらの記事にも紹介しています。

いくつか注目すべきポイントをまとめてみます。

裁判の争点はどこに

ホームヘルパーを派遣した訪問介護事業所の責任は、裁判の争点についてまとめてみます。

・感染経路は?

・ヘルパー・事業所の責任は?

・すべての集団感染には訴訟リスクが伴うのか?

感染経路は?ホームヘルパーからの感染と断定できるのか

ひとつは、感染経路は本当にホームヘルパーからだったのかという問題です。

新型コロナウイルスは、いつ、どこで感染するかわかりません。新型コロナウイルスはウイルスによる感染です。飛沫感染や接触感染など、どこにでも感染リスクは潜んでいます。潜伏期間も長く、無症状の方からも感染します。

ウイルスが市中に蔓延している状況では、濃厚な感染経路があったとしても、感染経路を断定することはできません

となると、感染していたホームヘルパーが訪問していたからと言って、ホームヘルパーが感染経路であるとは断言できません。ホームヘルパーが感染源だというのは、あくまで推定であって、確実とは言えません。

時期的に3月という比較的早い時期で、まだ市中に感染が広がっている状況ではなかったことを考えると、確かにホームヘルパーが感染経路になっていると見るのが自然でしょう。ただ、確実にホームヘルパーから感染したという証拠としては不十分です。裁判の場では、その不確実性の部分を含め、感染経路を断定することはできないと考えられます。

ホームヘルパー・訪問介護事業所の責任は?

今回の件で、ホームヘルパー個人や事業所には責任がなかったのでしょうか

記事から経過を見ていくと

3月23、27、30日 ヘルパーによるサービス提供を受ける。

3月31日 ヘルパーに発熱と味覚・嗅覚異常

4月1日 ヘルパー、いったん症状が改善した。翌日から仕事復帰。

4月2、6日 ヘルパーによるサービス提供。

4月3日 女性利用者、肺炎発症

4月9日 女性利用者、PCR検査にて新型コロナ陽性反応。

4月10日 ヘルパー、新型コロナ陽性反応

4月19日 女性利用者、新型コロナウイルス肺炎のため死去。

このような経緯になっています。

3月31日に発熱や味覚・嗅覚異常の症状があったので、その時点でヘルパーを交替すべきだったというのが遺族の主張です。

発熱はともかく、味覚異常が新型コロナウイルスの症状として関連があるとイギリスで報告されたのが3月21日。まだまだ味覚異常と新型コロナウイルス感染がリンクしなかった可能性も高い時期なのではないでしょうか。

もちろん、発熱があった時点で、発熱が下がったとしても、当面は出勤停止することが望ましかったでしょうし、状況によっては保健所に相談することも必要だったかもしれません。その部分では事業所の判断として正しかったのか疑問は残ります。

ただ、4月1日以降、ヘルパーを交替していたとしても、感染は防げなかったのではないかと、個人的には思います

利用者の発症が4月3日ということを考えると、おそらく4月2日のサービス利用時に感染し、潜伏期間0日で発症したとは考えにくいです。となると、3月中のサービス利用時に感染したと考えるのが自然でしょう。つまり、ヘルパーと利用者との間での感染が起きた時点で、ヘルパーは無症状だったということになります。

遺族の主張通り、4月1日にヘルパーを交替することができたとしても、その時点で利用者はすでに感染していたので、肺炎による死亡という結果は避けられることができなかったと考えられます。

となると、この裁判の勝敗、遺族側はノーチャンスだと考えるのが自然なのではないでしょうか。

もちろん、ヘルパーがマスク着用や勤務前の検温などを怠っていたということであれば、感染予防の責任はないわけではないでしょうが、4400万円の損害賠償に値するものではないでしょう。

ただ、これでヘルパーや事業所側の責任を認め、事業者側が敗訴すると社会全体に与える影響はとんでもないことになります。

すべての集団感染には施設側の責任が伴うのか

すでに日本中で多くの集団感染が起きています。

介護施設内・病院内での感染も非常に多いです。

今回のケースで、ヘルパー事業所運営会社の責任が認められる判決が出た場合、おそらくほぼすべての集団感染は訴訟リスクと向き合わなければいけません

この判例で原告側が勝利するとなると、感染源となった医療・介護従事者を勤務させた法人は、患者からのすべての裁判に敗訴する可能性があります

介護職員がウイルスを持ち込んだと思われる集団感染があったら、その施設を運営する法人は訴訟されたらどうなるか。

看護師がウイルスを持ち込んで集団感染が発生し、死者も多かった病院。患者が医療法人を相手にして訴訟を起こしたらどうなるか。

世の中とんでもないことになりますよ。感染症と必死に戦ってきた医療機関は集団訴訟を受けてあっという間につぶれます

これ、感染源を提訴するんだったら根本は中国での感染の発生元を提訴しろって話になりますよね。

感染リスクはどこにでもある。

原告側遺族の思いもまったく理解できないわけではありません。

でも、今回の裁判で、原告の訴えを認めることは、あってはならないと思います。どこにでもあるリスクで、自分が感染源になるかもしれないし、すでになっているかもしれないウイルスです。

全世界で100万人を超える死者を生んでいるウイルスです。

全てのリスクを取り除くことはできません

医療・介護従事者も、完全ではないにしろ、予防策をし、感染リスクを減らし、サービス提供を行っています。

このような訴訟が認められるようであれば、介護・医療従事者なんていなくなります。そうなったときに、だれが重症患者を救ってあげられるのでしょうか。

まっとうな裁判の結果を期待します。

追記:和解が成立

この件についての続報ですが、両者に和解が成立しました。

コロナ感染で死亡 遺族と訪問介護運営会社が和解 広島

新型コロナウイルスに感染してことし4月に肺炎で亡くなった広島県三次市の80代の女性の遺族が、当時利用した訪問介護の運営会社に対し、賠償を求める訴えを起こしたことについて、運営会社が女性の死亡に哀悼の意をささげることなどを条件に双方が和解しました。

新型コロナウイルスに感染してことし4月に肺炎で死亡した広島県三次市の82歳の女性について、遺族が、市内の介護事業所から派遣されたホームヘルパーが感染していたのに、安全対策を怠ったため女性が自宅で介護を受けて感染したと主張し、事業所の運営会社に対し、4400万円の賠償を求める訴えを広島地方裁判所に起こしていました。

遺族の弁護士などによりますと、遺族と運営会社の双方が話し合いをした結果、運営会社が女性の死亡に哀悼の意をささげることや、賠償の義務が無いことの確認などを条件に双方が和解し、遺族は12日付けで訴えを取り下げたということです。

これについて遺族は、「被告から母の死に哀悼の意をささげていただき、裁判を取り下げることにしました。介護の現場で、感染リスクを冒しながら懸命に頑張る介護従事者に尊敬と感謝の念を抱いており、裁判の影響で萎縮や混乱が生じないことを願います」とするコメントを出しました。

一方、訪問介護の運営会社は「裁判が続くと介護に携わる人がいなくなるという危機感があったので、和解により介護従事者の萎縮の解消につながりよかったと思います」と話しています。

NHK NEWS

これ、訪問介護事業の運営会社のコメントがすべてを物語っていますよね。

ただでさえ人材不足が深刻な訪問介護。訪問介護で働く人いなくなっちゃうんじゃないのかっていう危機感ありますからね。

ただ、感染のリスクは依然強く、ワクチンをしていたとしても感染は起こることを考えると、警戒を緩めることはできないですね。

記事編集・監修

 

介護福祉ウェブ制作ウェルコネクト

居宅介護支援事業所管理者・地域包括支援センター職員・障碍者施設相談員など相談業務を行う。

現在はキャリアを生かした介護に関するライティングや介護業界に特化したウェブ制作業を行う。

日本中がコロナ訴訟だらけに?

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