処遇改善加算の不正請求で三か月の指定停止。特定処遇改善の取り扱いに戦々恐々。

介護職員以外に処遇改善で事業所指定停止処分

相次ぐ不正請求と厳格化する処分

ここ数年、不正請求に対する処分が厳格化している印象があります。よりコンプライアンスを重視し、法令にそった事業所運営を求めていることと、質の低い事業所は淘汰されていくべきという方向にあるのでしょう。

今日、群馬県でこのようなニュースがありました。

群馬県の通所介護・訪問介護事業所による不正請求、三か月間の事業指定停止

 県は7日、介護報酬を不正に請求したとして、訪問介護と通所介護の事業所を運営する社会福祉法人館林つつじ会(館林市日向町)の事業者としての指定を停止する行政処分を行ったと発表した。同会は12月1日から来年2月29日までの3カ月間、施設の運営を停止。利用者は他の施設を利用することになる。
 県によると、同会は平成29年4月~昨年3月、介護職員の賃金改善のための「処遇改善加算」を請求し、加算分の約232万円の報酬を受け取った。
 加算額は本来、介護職員だけに支給すると定められているが、それ以外の職員にも支給したため、不正に介護報酬を請求したと指摘された。

介護報酬不正請求、事業者を行政処分 群馬 | 産経新聞より

不正請求はいけない。確かにいけない。

不正請求で手に入れようとしている介護報酬は保険料と税金です。それを不正に取得しようとする行為は許されないものです。

このニュース、何も考えずに見たら合計232万円の介護報酬を不正に受け取り、群馬県が三か月間の指定停止という行政処分を科したというニュースです。

でも、よく見たら、ちょっと印象が違います。

事業所は介護職員処遇改善加算を取得しています。これは本来介護職員の待遇改善のために使われなければいけない加算です。それを、介護職員以外の職員にも支給したということが今回処分に至った不正の内容です。

それ以外の職員として、通所介護(デイサービス)であれば、送迎の運転手や調理スタッフ、看護師なども考えられます。訪問介護であれば事務員などが考えられるでしょう。

そういった職員への支給が禁止されている介護職員処遇改善加算の報酬分を支給していたということです。

館林つつじ会いこいの広場ひなたの場合はどうだったのか

今回不正請求で処分を受けた事業所、館林つつじ会が運営するいこいの広場ひなたはどうだったのでしょうか。

事業所の情報を、群馬県の介護サービス情報公表制度のホームページから確認してみます。

群馬県介護サービス情報公表制度|いこいの広場ひなた

あくまでこの情報公表のホームページに入力した時点での配置人員ですが、 通所介護では介護職員以外に看護師が配置されています。訪問介護は介護職員(サービス提供責任者を含む)以外の配置はないようです。

たとえば、通所であれば、介護職員ではない看護師に介護職員処遇改善加算で取得した分の加算金の一部を支給した、ということになるのではないでしょうか。

本当に悪質な不正だったのか

確かに誤っていたのかもしれませんが、三か月の指定停止にするほどの悪質で大きな不正かというとどうなのでしょう。文書偽造や虚偽申告などでの隠ぺい工作をしていたということであればわかるのですが、少なくとも報道の内容からはそれを読み取ることはできないようです。

232万円を不正受給したということですが、おそらく232万円は取得した介護職員処遇改善加算の金額で、介護職員に適正に賃金に上乗せして支払われている金額も含まれていると思われますので、おそらくそれほど大きな金額の不正使用ではなかったと思われます。

もちろん、解釈を誤っていたのではあろうと思いますし、無知で法令を犯してしまうことは介護保険事業所を運営する上では許されないことだとは思いますが、だからといって、これだけをもって単純に悪質事業者というのは果たして正しいのか疑問です。

さらに厄介な介護職員等特定処遇改善加算がスタート

そして、この10月からはさらに厄介な加算が創設されました。それが介護職員等特定処遇改善加算です。

なにがやっかいかというと、今回の加算は、介護職員だけでなく、その他職員も対象になりますが、その支給についてのルールが非常にわかりにくいということです。

事業所によってはこの加算の取り扱いに苦労するところも多いでしょう。

ちょっと簡単にこの仕組みについておさらいしてみましょう。

介護職員等特定処遇改善加算の概要

新しい処遇改善のイメージ

介護職員等特定処遇改善加算は、介護職員の人材不足はもちろんのこと、知識や経験の豊富なベテラン介護職員・リーダー格の介護職員が介護の仕事を離れることがないように、報酬を手厚くするということを目的に創設された加算です。

この加算を取得するための条件として、事業所内に一人は月額8万円賃金が増える職員がいるか、もしくは処遇改善後に年収440万円を超える職員がでるかどうかが加算取得の要因の一つになります。

そして、支給方法が面倒なのですが、どのように処遇改善額を分配するかは事業所の裁量にもゆだねられることになりました。

ベテランの介護職員と、その他の介護職員、そして介護以外の職種、この3パターンの職員がこの処遇改善で賃金を上昇させる可能性があります。

ただ、重点的に待遇改善を行うことになっているベテラン介護職員の賃金上昇を1とすると、その他の介護職員は1/2以下、介護職員以外の職種はその他職員の1/2以下に設定しなければいけない決まりがあります。

非常にに厄介な加算です。だれがベテラン介護職員に該当するのか、年収440万円をどうしたら超えるか、その他の職種にはどこまでふくまれるのかなど、加算算定の難しさだけでなく、その分配方法にも大きな悩みを持っているようです。

特定処遇改善加算、実際にどのように分配している?

月給8万円アップする、という情報が先行していた介護職員等特定処遇改善加算ですが、実際のところ、経験・技能のあるベテラン職員に単純に月額8万円を上乗せするという方法をとる事業所は少ないようです

一番の理由は、それ以外の職員との間での賃金格差が開きすぎることで職場内での不満が爆発するためでしょう。

リーダー級グループの職員で、月額平均8万円もの給与アップをベースに設計された特定処遇改善加算。実際はどのような改善状況になっているのでしょうか。
前出の調査結果では、一人当たりの賃金改善所要見込額は平均で、
①リーダー級グループ(経験・技能のある介護職員):月額約2万円
②その他の介護士グループ:約1万円
③介護士以外の職種グループ:約5,000円
となっていて、全体の約7割の事業所が厚生労働省による「2:1:0.5」の配分に収まっています。
つまり、当初①リーダー級グループの職員のみを対象にしていた特別処遇改善加算は、勤続年数の設定などの基準が緩やかになっり、事業者の裁量で3つのすべてのグループに国の示した割合で配分されることとなったのです。
しかし、一方で、原則であったはずの月額8万円給与アップを達成した職員は、①リーダー級グループの中でも3.2%という低い数字に留まり、平均でも2万円と計画額を大きく下回りました。

10月から「特定処遇改善加算」で介護士が給料アップ!しかしリーダー級でも改善額は2万円止まり| みんなの介護

また、加算額だけでは足りないために、事業者が持ち出しで賃金アップをすることになった事業所も35.4%あったとことがアンケートからわかります。

複雑なルールの特定処遇改善加算。ルール違反は不正請求で処分の対象に?

複雑なルールの多い特定処遇改善加算。もしこの加算のルールを守れなかった場合は指定停止などの行政処分の対象になるのでしょうか

もし想定していた年収440万円に届かなかったら、もしその他の職種に該当しない職種(介護職を兼務していないケアマネなど)に支給していたら、ベテラン介護職員の1/2以下というルールに反して1/2以上を支給していたら・・・
考えていったらきりがない。

今回の群馬での処分の例を見ると、この特定処遇改善加算の取得はもちろん介護職員の待遇改善に非常に大きな意味合いがあるのと同時に、加算取得に際し適正な運営ができているかも問われているということでしょう

事業所の運営停止で影響を受けるのは事業所や運営法人だけではありません。サービスを利用している利用者はサービスを失うし、また違ったヘルパーや環境と関係を作り直さなければいかないという大きな負担を負います。家族もまた一から契約などを行ったり、利用者についての状況を説明することが必要になります。さらに、担当するケアマネも別の事業所を探すなど、非常に大きな業務負担を背負わなければいけません。

今回の不正請求のニュース、介護事業所にとっては危機感を感じるのに十分なニュースではないでしょうか。処遇改善加算の不適切な運用で事業運営停止という強気な処分をするのは、強烈なメッセージとして受け止めるべきでしょう。

不正請求はもちろん許されないことですが、適正に運営することができるような事業所指導が保険者にできているのかというと疑問を感じます

さらに制度が複雑化することで、事務も煩雑化し、それを適正に処理できなくなる事業所も増えていくのではないでしょうか。

このままでは本来目的としている介護職員の待遇改善につながるどころか、介護サービス事業者はどんどん撤退していく危険性もあると感じています。

追記

群馬県のホームページで今回の館林つつじ会への処分についての詳細が掲載されています。

(2)不正不当【介護保険法第77条第1項第11号】
 指導監査用の虚偽の賃金支給台帳を作成し、支給対象職員への実際の支給額と異なる金額を記載した虚偽の実績報告書を県に提出した。

群馬県ホームページ

虚偽の実績報告書を県に提出していたというところで、この不正が悪質という判断がなされたのではないでしょうか。

ツイッター上でもこんなコメントが

処遇改善加算という取り組みはいずれにしても、不公平感が生まれますよね。もちろん、給付を重点化していきたいという思いは強いのでしょうが、職種で支給対象を強制的に区切るというやり方が合わない事業所もあると思います。介護職員以外が介護に使い業務を担っている場合などもありますし。